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東京高等裁判所 昭和24年(新を)3513号 判決 1950年7月04日

控訴人 被告人 田中正太郎

弁護人 小風一太郎

検察官 小出文彦関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中百五十日を原判決の本刑に算入する。

当審における訴訟費用中証人として召喚された植木高有に支給された分以外はすべて被告人の負担とする。

理由

弁護人小風一太郎、同鈴木重一及び被告人の各控訴趣意はそれぞれ末尾に添附した同人等名義の控訴趣意書と題する書面に記載してある通りであるから、これに対し順次左の通り判断する。

弁護人小風一太郎の控訴趣意第五点について。

本件被告人の逮捕が現行犯人逮捕の方法によるべきか或は緊急逮捕の方法によるべきかは論議の余地の存する問題ではあるが、これは公訴提起の効力とは別個の問題である。裁判所は公訴の受理に当り被告人の逮捕方法の当否を調査すべきものでないことは言うまでもなく公訴の受理後被告人の逮捕方法の誤れることを理由に公訴を棄却すべきものでないことも訴訟法上明らかである。原審の訴訟手続には所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

同第六点について。

刑事訴訟法第二百八条は被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から所定期間内に公訴を提起しないときは検察官は直ちに被疑者を釈放すべき旨を規定したものであつて、勾留のまま所定期間後に為された公訴提起が無効なる旨を規定したものではない。しかのみならず、本件被告人については右所定期間が同条第二項により参考人取調の必要上適法に延長され該延長期間内に公訴提起が為されたことは記録に編綴された勾留状及び起訴状の各記載に徴して明らかであるからこの点に関する攻撃も当を得ない。論旨は理由がない。

同第八点について。

民事訴訟法の送達に関する部分には「送達を受くべき者」と「交付を受くべき者」とを区別して規定しているのであつて、所論公判期日召喚状については「送達を受くべき者」は東京拘置所長一人であるが「交付を受くべき者」の中には、右召喚状の受領者たる看守部長松本龍次も包含されるのであるから、右召喚状の送達は同人の受領により適法に為されたものと言わねばならない。しかもその公判期日には、被告人は出頭して異議なく審理を受けているのであるから、原審の審理、判決にはもとより所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 荒川省三 判事 堀義次)

控訴趣意

第五点被告人は原判決判示事実に就て現行犯人として逮捕せられ(記録第九丁表第十二行目乃至同丁裏第一行目)勾留の後起訴せられたものである。而して右両者は緊密一体の関係に在り、前者の違法は後者をも違法ならしめるか少くとも其の疑が極めて大である。

然るに被告人の判示所為と逮捕との間には時間的に観て一時間半以上、距離的には十粁余の隔りがあり、其の間逮捕した司法巡査を初め被害者等も何等誰何追呼等の処置に出て居らぬ。(記録第二十七丁表から同第三十二丁表)即ち刑事訴訟法第二百十二条所定の現行犯人若しくは所謂準現行犯人ではない。少くとも其の疑が甚だ大である。而して之が公訴の適否に影響を及ぼすべきは前述の通りである。

然るに原裁判所は公訴を棄却しなかつたのは勿論、記録第八丁以下を検するも、果して公訴を受理すべきか否を調査しなかつたのは不法に公訴を受理せるの違法あるか、職権を尽さざるの違法あるに帰し、原判決は破毀を免れない。

第六点被告人は昭和二十四年五月十二日現行犯人として逮捕されたものであるから刑事訴訟法第二百十六条の規定に依り同法第二百八条第一項所定の期間内に公訴提起がなければならない。

然るに本件公訴提起は所定期間を過ぎた昭和二十四年五月三十一日である。(記録第一丁)

即ち無効なる公訴であるから棄却しなければならないのに之に反した違法があり、原判決は破毀を免れない。尤も刑事訴訟法第二百八条第二項の規定があるが、之は飽く迄異例特別な場合の緩和規定であるから、検察官に適法な公訴提起たることに就き証明せしめる等の措置に出づべきであるに拘らず、記録第八丁以下を検するも何等之を考慮処理して居ないのは違法にして原判決の破毀は免れない。

第八点被告人に対する公判期日召喚状は、昭和二十四年九月八日日没後約三十分たる午後七時三十分東京拘置所看守部長松本龍次が書類受送達者即ち書類の交付を受くべき者たる東京拘置所長不在の為受領したものである。(記録第六丁)

右に就き裁判長の許可ありたりとは認め得ざるを以て刑事訴訟法第五十四条民事訴訟法第百七十四条の規定に依り其の効力を認められず、延いて之に依り訴訟追行せられた原判決は破毀を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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